詩・散文のページ
　　
　　　　　　　　　 　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【 晴　十 】



　　　　　　　　　　　　　「犬死に」　　　　　　　　　　　　


　　　　　　　　　　　　　娘が泣いている

　　　　　　　　　　　　　愛犬が死んだのだった

　　　　　　　　　　　　　家族のようだった犬の

　　　　　　　　　　　　　その死に耐えきれない

　　　　　　　　　　　　　Ｊは庭に穴を掘り

　　　　　　　　　　　　　硬い毛むくじゃらを埋葬する

　　　　　　　　　　　　　Ｊの妻も泣いている
　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　Jは涙する二人の女を抱きしめた
　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　娘が泣いている

　　　　　　　　　　　　　異教徒の娘が泣いている

　　　　　　　　　　　　　両親が死んだのだった

　　　　　　　　　　　　　Ｊの軍隊の狂気によって

　　　　　　　　　　　　　両親を殺戮されたのだった

　　　　　　　　　　　　　娘は父と母の骸にすがり

　　　　　　　　　　　　　血まみれの二つの肉にすがり

　　　　　　　　　　　　　ただ　ただ　泣いている



　　　　　　　　　　


　　　　　　　　　　　　　「役立たず」　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　虚無の椅子に腰掛けて

　　　　　　　　　　　　　降りそそぐドグマの落葉に

　　　　　　　　　　　　　ふと見つけたピュロンの葉

　　　　　　　　　　　　　賢明なるはエポケーよ


　　　　　　　　　　

　
　　　　　　　　　　　　　「首なし」　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　男が列車の席に座ると　
　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　みなが眉をひそめて席を離れる

　　　　　　　　　　　　　男には首より上が無かった　

　　　　　　　　　　　　　生まれた時にわずかに残っていた

　　　　　　　　　　　　　首や顎の骨の残骸は

　　　　　　　　　　　　　医師によって取り除かれた

　　　　　　　　　　　　　男は職を探していて　

　　　　　　　　　　　　　首のない証明写真を持ち歩いている

　　　　　　　　　　　　　列車を降りてホームに立つと　

　　　　　　　　　　　　　男は少し躊躇した

　　　　　　　　　　　　　陽光が頭をクラクラさせる

　　　　　　　　　　　　　背を丸くして物陰に隠れ　

　　　　　　　　　　　　　男は少し嘔吐した